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静岡家庭裁判所 昭和50年(少)1340号 決定 1975年12月26日

少年 T・A(昭三七・三・一二生)

主文

少年に対し強制措置を採ることは、これを許可しない。

理由

本件送致事由の要旨は次のとおりである。

少年は、昭和五〇年一〇月一八日静岡南警察署から窃盗事犯により、また同月二四日には静岡中央警察署から家出及び窃盗事犯により、それぞれ通告されたものであるが、静岡県中央児童相談所の招致に応ぜず、その前後約一か月の間、自宅には殆んど帰らず、民家の軒先や安倍川の土手などで家出少女らと泊り歩き、或は不良仲間の家でざこ寝をし、シンナー、煙草の吸飲、不純異性交遊を続けるほか、オートバイなどを窃取して無免許運転などを繰り返していたところ、同年一一月一一日静岡中央警察署に補導された。しかし、児童相談所は、少年及びその保護者の施設収容に対する強い拒否的態度を考慮し、以後不良行為に走らないこと及び再非行の場合は施設に収容するとの誓約の下に、同月一三日少年の帰宅を認めた。しかるに、少年は同月一七日夕刻から家出し、翌一八日夜新宿署に仲間四人と共に補導され、一時帰宅したが、同月二四日再び家出し静岡市内を放浪中、同年一二月二日夜家族に発見され静岡中央警察署に保護された。少年の以上のような行動等からみて、その健全な育成を期するためには、開放された施設では適応困難にして、むしろ強制措置をとりうる武蔵野学院に入所せしめ矯正教育を受けさせることが適当と認められるから、本件送致に及ぶ。

本件記録、少年調査記録及び審判の結果によれば、少年につき上記送致事由掲記の触法、虞犯の事実の存することを認めることができ、右事実によれば、少年を一定期間の強制措置を付して武蔵野学院に入所せしめることは、あながち不当な措置とはいい得ない。しかし前掲各資料によれば、少年は未だ一四歳に満たない中学二年生であること、少年の問題性が顕著になつたのは昭和五〇年八月以後のことであり、少年の父が同月八日から同年九月七日まで入院し、その間、母もその付添をなし、少年とその兄(中学三年)の二人を家庭に残すこととなつたのが、少年の問題化の最大原因であるとみられること、少年の父は少年を盲愛する嫌いはあるが、少年の監護に異常な熱意と努力を払つており、家庭は経済的にもかなりの余裕のあること、少年の叔父T・Oは永年に亘り防衛庁事務官を勤めた後昭和五〇年一〇月退職し、東京都板橋区○○○において飲食店を経営しているが、少年の身上に深く思いをいたし、自ら少年を引き取つて監護することを申しでており、且つその能力は十分であること、少年もこの叔父に非常な近親感を有し、心を入れかえて叔父の許で真面目な中学生として勉学に専念することを誓つており、少年の両親もこれに異議がなく、むしろこれを希望していること、以上の各事実を認めることができる。

以上の各事実からみれば、少年を武蔵野学院に強制入所せしめるよりは、今一度、少年の叔父であるT・Oに監護を委ね、同人の適切な指導保護に期待するのが、少年の健全育成を期する上において最も妥当な措置であると考えられる。

よつて主文のとおり決定する。

(裁判官 兼築義春)

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